近年メディアや自治体の啓蒙、学校教育などを通して、様々な環境問題が私たちの意識に根付いてきました。中でも気候変動や異常気象を引き起こす地球温暖化の問題は、とても深刻な状況です。地球温暖化の原因として温室効果ガスの増加が挙げられており、これを削減することが緊急課題となっています。
その対策のひとつとして、ごみ焼却による温室効果ガス削減を目的とした3R活動(※リデュース、リユース、リサイクル)が広く浸透していますが、一方でその活動の弊害が地球上で起こっていることを皆さんはご存知でしょうか。
それは、私たち先進国がリユース品(再利用)として手放した衣類が、遠いアフリカや南米の地で大量廃棄され、自然環境に深刻な影響を与えているというものです。
この記事を通して衣類の大量廃棄問題をお伝えするとともに、今後私たちのとるべき行動を考えていきたいと思います。
善意のリユース品、そのたどり着く先は
BBC news Japanが2021年に報じた内容によると、それは西アフリカのガーナにあります。
ガーナには世界最大級の古着市場があり、そこへ先進国が寄付やリユースという名目で手放した中古衣類が輸入によって集まり、多くの業者や商人が日々取引を行っています。しかしその多くが売れ残り、現地で廃棄されているのが現状です。原因は需要に対する圧倒的な供給量や品質の悪さにあります。ボロボロの服や汚れやしみが付いたもの、破れた服などにお金を出す人はいないと思いますが、ガーナはそういった衣類の最終受取先となってしまっているのです。 圧倒的な分量や品質低下の裏には、ファストファッションの躍進が関係しています。ファストファッションにより形成された短サイクルの流行、それに合わせた大量生産大量消費のしわ寄せが、遠く離れた地で大量廃棄となって現れているのです。
衣類の大量廃棄が現地に与える影響
途上国のガーナでは衣類の処理環境が整っておらず、売れ残ったものは埋め立て処分されますが、明らかにキャパオーバーとなった埋立地は衣類であふれ返っています。そして、広範囲にわたって山のように積み重なったボロ布同然の衣類は、雨や風によって近くの海に流出し、排水溝や水路に詰まり、あるいは砂浜や海底に埋没したまま劣化することで、自然環境を汚染しているのです。
また低価格で衣類を入手できることから現地の繊維産業が衰退し、雇用環境の悪化や独自の文化への影響も懸念されています。
このような古着の終着地点はガーナ以外にも数か国に存在し、南米チリのアタカマ砂漠への大量廃棄もガーナ同様に問題を抱えていることが2022年にNHKより報じられています。近年では自国の産業保護のために古着の輸入を禁止する国もでてきました。
財務省の貿易統計によると、日本の古着輸出先はマレーシア、大韓民国などアジアがシェアを占めていますが、輸出先を基点に再輸出されている可能性が環境省により指摘されています。その結果としてアフリカや南米に流入している可能性はゼロではありません。
参考:
BBC news Japan「ファストファッションの末路……不必要になった衣服の埋め立て地」
NHK「着られなくなった衣服の“末路”とは…」
環境省「中古衣類を対象とした海外でのリユース実態調査」
私たちにできること、今日から変えられる心がけ
私たちが困っている人のため、環境のためと思って手放した衣類が、他の国で生活する人や環境に悪影響を及ぼしているのはとても心苦しいことです。
ではリユースをすべきではないのかというと、決してそうではありません。まだ使えるものをすぐに捨てるのではなく、長く使おうという心がけは大切です。実際、衣類を必要としている人は国内外問わず存在しますし、そこへ物が届くことは素晴らしいことです。ただ、圧倒的な供給量と低品質という点に着目すると、私たちの心がけ次第で改善できることもあるのではないでしょうか。
・私たち自身の消費(購入)を抑制する → リユースに回るものが減る
・大切に使い、良い状態のものをリユースする → 再び使ってもらえ、ゴミを減らせる
そもそもアパレル製品は生産過程において多くのCO2を排出し、水も大量に使用します。海外で製造されている製品は、そこから更に燃料を使って輸送されてきます。このように環境に負荷をかけながら私たちの手元に届けられている衣類ですが、ひとたび不用になると再び環境に負荷をかけて焼却処分されます。環境庁によると、不用衣類のうち66%が焼却処分されているとのことです。 この現状と併せて考えても、私たちは今後より一層エシカルな視点をもって衣類の消費を検討する局面にきていると思います。
関連リンク
「土に還る服の何が環境に優しいの?廃棄後のことも考えておしゃれを楽しもう!」
「いらない服は捨てる前にリサイクルへ。サステナブルにファッションを楽しもう!」
「作る責任、使う責任」を全うできる社会に
衣類の大量廃棄問題に取り組むには、使う側の私たちだけでなく、作る側である企業の対応も欠かせません。最終的に途上国へたどり着く衣類が1枚でも減るように、長いサイクルで着られるデザイン、耐久性のある素材の使用、適切な量での生産などの企業努力が求められます。私たち消費者は、楽に手に入れた安物は使い捨てますが、熟考した上で奮発したものは大切にする傾向があります。作る側も使う側も、1枚の服の生い立ちから手放した後にまで思いを巡らせ行動することで、人や自然への負荷は軽減できるのではないでしょうか。
最後に
わたしは最近衣類を2枚、量販店で購入しました。タグで素材を確認してみると、1枚は再生ナイロン100%、もう1枚は再生ポリエステルが半分以上混紡されたものでした。どちらも軽量で着心地がよく、形もしっかりしています。言い方は悪いですが、ゴミからこのように立派な衣類ができることに驚き、リサイクル商品への見方が変わりました。またこのような繊維や商品を開発した企業の努力にも頭が下がります。
世の中は確実に循環型社会へ動き始めています。私たちも消費という手段を上手に使い、地球規模での環境改善に取り組んでいきませんか。何から手をつければよいか分からない場合は、まず知ることから始めませんか。