国土の7割が森林で覆われている日本は世界有数の森林大国と言われていますが、「木材輸入国」でもあるという矛盾を抱えている国でもあります。つまり、木材自給率が低いということ。
この状況に危機感を覚えた政府は、2025年までに木材自給率を50%までに上げるという目標を掲げました。普段はあまり深く考えたことがない方も多いかと思いますが、日本の林業の現状をこの記事を通して一緒に知っていきましょう!
木材自給率について
木材自給率とは?
木材自給率とは、国内で消費されている木材のうち国産材が占める割合のことです。日本では林野庁によって毎年木材自給率が算出されています。
日本の木材自給率はどのくらい?
2021年9月に林野庁から発表された「2020年の木材需給表」によると、2020年の木材自給率は41.8%となり、木材自給率は2011年から10年連続で上昇しているとのことです。また、前年と比べると4.0ポイントも上昇しており、2002年に18.8%まで下がり続けた木材自給率を20年弱で2倍にしたことを考えると、成果を出していることが分かります。
ただ、上昇しているとはいえ日本は国土の7割が森林なので、4割では木材自給率はまだまだ足りないとも言えるでしょう。
日本の木材自給率が10年連続で上昇した理由とは?
木材自給率が4割という5割にも満たない数字ではありますが、日本の木材自給率が10年連続で上昇したことは事実です。林野庁では、「48年ぶりに40%台に回復」したという報告もされています。木材自給率が10年連続でこんなにも上昇した理由は何か、林野庁のホームページから分かることをまとめてみましょう。
理由①コロナ禍で木材輸入量が減少
令和2年(2020年)の輸入量は、4,329万立方メートルとなりました。前年と比較すると762万7千立方メートル(15.0%)減少しました。
引用:「令和2年木材需給表」の公表について
ここ数年、コロナ禍によるウッドショックが起きたこともあり、そもそも木材輸入量が減少しています。あなたの身の回りでも、「家を建てたいのに木材が足りない、木材の価格が高騰して予算オーバーになった」といった方はいませんか? 林野庁の調べでも、2020年の木材輸入量は前年と比べると15.0%も減少しており、コロナ禍による影響が大きいと言えるでしょう。
理由②燃料材の増加
ウッドショックの影響を受けたことにより、海外の木材を安価で輸入できなくなったため、全体的に木材の需要が減少しました。それなのに、国内生産量が増加したのには訳があります。それは、国産材を燃料材として消費する量を増やしたということです。
前年比で建築や木工などに用いられる木材(用材)が7.7%、しいたけ原木が3.6%減少していますが、燃料材は28.8%も増加しています。つまり、全体的に消費する木材は減ったのに、燃やすための木材の生産が増えたということです。
結局のところ、森林破壊をしながら木材自給率を上げてきたということなので、本来であれば用材やしいたけ原木の生産量を増やしたいですよね。しかし、そこには日本の林業における問題点が生じているのです。次の項目でその問題点と日本の木材自給率が低い理由を詳しく見ていきましょう。
日本の木材自給率が低い理由とは?
冒頭でも触れたように、日本は森林大国であるにも関わらず、木材輸入大国でもあります。そもそもこの矛盾はなぜうまれたのでしょうか?そこには日本の林業における問題点も関係しているのです。
理由①木材輸入の自由化による国産材の価格高騰
もともとは国産材を建築材料として使っていたはずなのに、日本の建築物には海外の木材が使われています。そのようになった背景には、戦後の1964年に木材の輸入が自由化されたことが関係しています。木材輸入が自由化されて安価な海外の材木が大量に手に入るようになったことで、国産材の価格が高騰してしまったのです。
理由②林業従事者の減少
国産材の消費が減少したのと同時に林業従事者も減少しており、今では日本の労働者のうち0.9%しかいません。昔に比べると最新の機械を導入して労働環境は整ったように思えますが、林業従事者は一貫して減少傾向にあります。 そのため、国産材の消費量を増やそうとしても、そもそも人手の確保が難しいという問題があるのです。
理由③薪や炭に代わる新たな燃料の登場
日本でも1950年代までは都市部でも薪や炭を燃料としていましたが、都市ガスやプロパンガスという新たな燃料の登場により、ますます国産材の利用価値がなくなってしまいました。
理由④補助金による伐採の制限
林業による作業のほとんどが国や自治体からの補助金から支給されているため、国産材の伐採量を増やそうとしたら国や自治体を通す必要があります。しかも、補助金の支出額は年間で決められているので、林業における補助金を増やすことも難しいのです。
木材自給率を上げるための取り組みは?
まだまだ課題の残る日本の林業ですが、木材自給率を上げるために一体どのような取り組みをしているのでしょう。国だけでなく、自治体や住宅メーカーによる木材自給率を上げる取り組みをご紹介しましょう。
①公共建築物等木材利用促進法
2010年に施行された「公共建築物等木材利用促進法 」は木材の確保をすることで林業の発展を図り、森林の適切な整備および木材自給率を上げることを目的とした法律です。
②新技術CLT
昨今、国産材を利用した新たな市場として注目されている「CLT」とは、杉やヒノキなどの軽量木材を原料としたパネルのことです。「CLT」は軽量のパネルなので施工が早く、短期間での工事が完了するだけでなく、マンションや商業施設、木造ビルといった大型の建築物にも利用できます。 この「CLT」という新技術で地方創生を実現しようと、石破茂氏が会長の議員連盟が2016年に設立されており、国でも力を入れている取り組みのひとつです。
CLTの説明は内閣官房のHP 「CLT活用促進のための政府一元窓口」 でご覧になれます。
③自治体による助成金や補助金制度
助成金や補助金を支給している自治体、そして先ほどもご紹介した「公共建築物等木材利用促進法」にともなって国産材を積極的に利用する自治体もあります。各自治体によって制度は多少異なりますが、自治体でも木材自給率を上げる取り組みをしているのです。
④住宅メーカーによる脱炭素社会
脱炭素社会の実現に向けて、各住宅メーカーによる取り組みも活性化しています。今の時代、省エネ・環境にやさしい家づくりは常識となっているので、将来的に家を建てることを考えている方は各住宅メーカーのホームページをチェックしてみてくださいね。
木材自給率を上げるために私たちにもできること
昔から木材自給率の低さが問題視されていた日本ですが、皮肉にもコロナ禍によるウッドショックによって日本の林業が抱える問題が浮き彫りになりました。
正直、ウッドショックで生活にそれなりの支障が出るまでは、日本の林業に関して深く考える機会もありませんでした。そんな中で私たちが木材自給率を上げるためにできることは、日本の林業の現状を知り、いかに国産材を利用していくかということだと思います。急速に木材自給率を上げることはできませんが、ひとりひとりが意識して国産材を利用することに大きな意味があるのではないでしょうか?