椎茸の菌床をバイオマス燃料へ。地方自治体や椎茸生産者の取り組み

椎茸栽培には2つの方法があります。
一つ目は「原木栽培」、二つ目は「菌床栽培」です。
後者の菌床栽培では、原木栽培よりも短期間で一年中栽培ができ、安定した生産が可能です。
しかしながら、菌床栽培で使われた「菌床」は収穫が終わると通常は産業廃棄物として焼却処分するか、埋め立て処分する必要があります。
廃棄物となる「廃菌床」は、収穫できるきのこの重量比で、約2~3倍の量です。
何より考えなければならないことは、焼却する場合は温室効果ガスである二酸化炭素を発生させてしまうということです。
つまり地球温暖化の原因となりうるのです。
埋め立ての選択をする場合も、山を切り開いたり、海を埋め立てたりするため、いずれの方法をとっても地球環境を考えると良い方法とは言えません。
そこできのこを栽培する農家や、政府・各地方自治体は、この廃菌床を再利用できる方法を考え、実践しています。
おがくずに米ぬかなどの栄養分を混ぜ、種菌を入れて固めた「菌床」は、一体どんなものに生まれ変わるのでしょうか。

目次

廃菌床はどんなものに生まれ変わるのか?

①たい肥

廃菌床にはきのこの栄養分が含まれているため、たい肥として再利用することができます。
廃菌床には窒素があまり含まれていないという特徴があり、微生物の活動促進にも有効なので土壌改良のたい肥にするのは、効果的です。
きのこの生産者が生産した後の菌床をたい肥化できれば、それを販売することも可能ですので、環境にやさしいだけでなく、廃棄物の処分費がかかるはずだった菌床を販売して収入を得ることができるという面でもメリットがあります。
新技術説明会で発表された鳥取大学農学部の研究では、椎茸の廃菌床から放出される「オクタノン」という物質が植物病害、具体的には「キャベツの黒すす病」や「トマトの灰色かび病」などを抑制する効果があると実証しています。
廃菌床をたい肥にすることは、他の植物にとっても様々な効果が期待できますね。

②カブトムシマット

カブトムシやクワガタなどの昆虫マットに再利用する方法もあります。
菌床に残された少ない栄養分が昆虫にとっては貴重な養分となるため、それを活かして昆虫マットに加工する農家があります。
朝日新聞の記事によると、秋田県横手市の椎茸農家では、今まで廃棄コストがかかってしまっていた廃菌床を、幼虫が食べやすいように独自の加工をした昆虫マットの製造を始めて、昆虫のブリーダーとしても活躍しているそうです。
中央・南アメリカ原産のヘラクレスオオカブトは「カブトムシの王様」とも呼ばれ、成虫は300万円ほどで取引されることもあるとのこと。
椎茸農家が昆虫ブリーダーとは一見結びつかないと思いましたが、秘密は「廃菌床の昆虫マット」にあったのですね。

③菌床として再利用

より環境に配慮した再利用方法として、廃菌床から新しい菌床を作る研究も進められています。
廃菌床を破砕後、熱処理で古い菌糸を分解し、新しい栄養源を再度加えて新たな菌床を作り出すのです。
この方法は廃棄物を出さずに生産者にとっても菌床コストを削減できるため、将来的に期待されています。

東広島市の「菌床きのこプロジェクト」と「たい肥化プロジェクト」

地方自治体では様々な取り組みがされています。ここでは、東広島市の「菌床きのこプロジェクト」をご紹介しましょう。

菌床きのこプロジェクト

画像引用:東広島市バイオマス産業都市構想

木質エネルギープロジェクトにおいて収集した森林資源をチップ・おが粉に加工し、椎茸の菌床として利用します。そうすることで、森林の保全及び里地里山の再生が促進されます。
菌床仕込時の高温処理や育成期間中にエネルギーの熱処理が必要な場合は、可能な限 りバイオマス熱利用設備を導入し、効率的なエネルギー循環を図ります。

たい肥化プロジェクト

画像引用:東広島市バイオマス産業都市構想

市内で発生する食品残渣や木質バイオマス資源として利用できない森林資源(枝葉の部分)や、菌床きのこプロジェクトで廃棄される菌床を中心に、たい肥化し土壌還元を推進し、資源の地域循環を図ります。

企業による取り組みと研究による菌床の資源としての可能性

①企業による取り組み

廃菌床を乾燥し、バイオマス燃料へリサイクルする機械も開発されています。
きのこの廃菌床は種類にもよりますが、70%~80%の高い含水率です。それを安価に乾燥させることでバイオマス燃料として活用ができ、乾燥させた廃菌床はボイラー燃料として自家消費や販売につなげることができます。

②菌床の資源としての可能性

林産試験場の研究成果や木材利用に関する情報などを紹介する広報誌「林産試だより」から2011年12月に発行された「シイタケ廃菌床からブドウ糖を生成する」という研究によると、椎茸の廃菌床にはバイオエタノールや化学製品の原料となる「ブドウ糖」を得るための原料としての将来性があるとのことです。
それだけでなく、シイタケの廃菌床をバイオマス資源として考えた時、他のバイオマス資源より「季節的な供給の安定性」「資源の収集・運搬コスト面」で利点があり、非常に期待できる資源だということが述べられています。

まとめ

椎茸を栽培した時に出る廃菌床は、様々なものに再利用されていることを学びました。
そして温室効果ガスを出さないために、国や生産者、企業や大学で様々な研究が進められていることも分かりましたね。
椎茸を手に取る時、「この椎茸が育った菌床はまたどこかで再利用されている。椎茸って 地球にやさしい食材なのだな。」と思い出してもらえたら嬉しいです。

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この記事を書いた人

やさしいしいたけ.jpライターのseikoです。
最近家庭菜園にハマっていて、つい先日はブルーベリー(サザンハイブッシュ系2種)とミニトマトの苗を植えました。
今年もレモンの木にはたくさんの蕾ができていて、今から収穫が楽しみです。
日々の暮らしの中で感じたことや、生活の知恵を共有できる記事を書きたいと思っています。

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